障害者雇用の給与を決める際の前提として、「障害を理由する差別的な扱いをしない」「業務遂行能力や仕事内容を評価しての算定」「最低賃金についての検討」などが挙げられます。仕事内容の平均給与などを参考にしつつ、給与額を検討しましょう。
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SDGsや障害者雇用納付金の対象企業拡大などを背景として、障害者雇用の推進に関心を持つ企業は多いでしょう。そこで気になるのが、給与額の設定ではないでしょうか。
まずは障害者雇用の給与を検討するにあたり、どのような前提があるのかを確認していきます。
まず「障害者雇用促進法」によって、障害を理由する差別的な取り扱いが禁止されています。これを根拠として、一般社員と同様の能力を発揮しているのであれば、障害者であることを理由に給与を減額することは認められません。
ただし、一般社員と同じ業務に就き、仕事の早さや成果に差が生じているのであれば、それに応じた給与を設定できます。あくまでも業務遂行能力を評価しての給与設定となるためです。
障害者雇用を実施するにあたり、自社内で前例のない仕事内容(ポジション)を創設する際は、その仕事の一般的な給与水準を調べたうえで、業務遂行能力などから給与を設定しましょう。
障害者雇用の場合も「最低賃金制度」を遵守するのが前提となります。
ただし、障害の程度によっては著しく業務遂行能力に影響を与え、業務内容に見合う給与が最低賃金の基準を下回ってしまうこともあるでしょう。その場合、「最低賃金減額の特例許可」を労働局に申請できます。これは最低賃金を一律とすることで、逆に雇用機会が失われる可能性があるため認められている特例です。
障害者の平均賃金や従事する仕事内容は、厚生労働省「障害者雇用実態調査結果」で公表されています。
1ヶ月あたりの平均賃金は、身体障害者、知的障害者、精神障害者と分けられて公表されています。
・身体障害者:21万5000円
・知的障害者:11万7000円
・精神障害者:12万5000円
上のように、給与に大きな開きがあるのは、就業する仕事の内容に違いがあるためです。以下、それぞれ上位3つの仕事内容を見ていきます。
身体障害者では、「事務的職業(32.7%)」「生産工程の職業(20.4%)」「専門的、技術的職業(32.7%)」となっています。
知的障害者では、「生産工程の職業(37.8%)」「サービスの職業(22.4%)」「運搬・梱包・包装等の職業(16.3%)」となっています。
精神障害者では、「サービスの職業(30.6%)」「事務的職業(25.0%)」「販売の職業(19.2%)」となっています。
身体障害者の平均賃金に圧倒的な差がついているのは、携われる職務が広いことに加え、「専門的、技術的職業」の比率が高いことが要因と考えられます。専門スキルを有していれば給与が上がるのは、一般的な雇用と同様です。
携わる仕事内容と深く関連するのが、雇用形態です。身体障害者の半数は「無期契約の正社員」となっているのに対し、知的障害者と精神障害者は「無期契約の正社員以外」「無期契約の正社員以外」の割合が高くなっています。
給与の開きは雇用形態の違い、つまり正規雇用と非正規雇用(派遣社員やアルバイト等)による待遇差があることを示唆しています。
障害者雇用を避けたくなる要因のひとつとして、様々な面でのコスト増が挙げられるでしょう。職場環境の物理的な整備や、専用のマニュアル作成などが必要となります。
しかし、採用や環境整備にかかるコストの一部は、様々な助成金で賄うことができます。ここでは、その一部を紹介します。
障害者が作業をしやすいように、施設を改造・整備した場合、費用の一部が助成されます。
障害の種類や程度に応じて、雇用管理のために必要な介助などの措置を実施する際、その費用の一部が助成されます。
通勤が困難と認められる障害者の雇用に際して、通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部が助成されます。
障害者の採用にあたり、助成金が給付される制度があります。主な制度として、特定求職者雇用開発助成金の「特定就労困難者コース」「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」などが挙げられます。
障害者雇用における給与設定は、実はさほど難しいものではありません。原則は障害の有無で差別をせず、職務遂行能力や仕事内容によって算定するだけです。
自社内で前例のないポジションを用意して雇い入れる場合は、「障害者雇用実態調査結果」やその仕事内容の平均給与などを調べて参考にしてみましょう。