健康経営とは、従業員の健康管理を経営問題として捉え、戦略的に実践していくこと。すでに経済産業省の主導で、健康経営銘柄や健康経営優良法人といった認定制度も整っています。生産性向上や企業価値の向上といったメリットがあり、率先して取り組むべき課題といえます。
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経済産業省では、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。
これまで従業員の健康は個人の問題であり、企業としては福利厚生で管理を行う程度でした。しかし、従業員の健康に投資することは、組織として採用力や生産性の向上等につながると見直されています。
また健康経営は、日本再興戦略・未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つであり、健康経営の推進を評価する制度も整備されています。これらの評価を受けることで、企業の評価・価値が「見える化」されるのです。
実際の取り組み内容は、運動の推進や職場環境の改善など多岐にわたります。例えば、新型コロナウイルス感染拡大に際して、テレワークを推進することも従業員の健康に寄与することになるでしょう。
経済産業省は、2015年から東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄制度」を開始しました。東京証券取引所の上場企業のなかからとくに優れた取り組みを実施した企業を選定し、紹介しています。
原則として1業種1企業が選ばれるルールなので、健康経営銘柄に選定されれれば、選りすぐりの健康経営企業といえるでしょう。
経済産業省が2017年より開始した制度で、優良な健康経営に取り組む法人を評価するもので、未上場の企業・法人も対象となります。
健康経営優良法人に対して優遇を図る金融機関や自治体もあり、さらに上位500社に対して、中小規模法人部門では「ブライト500」、大規模法人部門では「ホワイト500」として認定しています。
健康経営が広まる背景には、少子高齢化が主たる要因として挙げられます。少子高齢化により、労働力人口の減少や健康保険の圧迫など、企業を取り巻く様々な問題が発生しています。
少子高齢化によって若手人材が減り、採用活動は年々難しくなります。さらに転職の一般化によって人材の流動化が進んでいるため、労働環境が悪い企業は採用難や離職率の増加といった問題に直面するでしょう。
企業は環境を整え、働き手から選ばれる職場を作らなければならないのです。
2025年4月からすべての企業には「65歳への定年の引き上げ」「定年廃止」「65歳までの継続雇用制度」のうち、いずれかの対応が求められます。社内の人口ピラミッドは高年齢化していき、体力の衰えからくる生産性の低下や健康状態の悪化など様々な問題が生じるでしょう。
こうした問題に対応するため、企業は従業員に健康状態を維持してもらい、長く高いパフォーマンスを発揮してもらうための施策を講じなければいけません。
健康経営の導入により、従業員の病欠が減り、日々の仕事のパフォーマンスも維持にもつながります。また、労働環境の改善によるモチベーションアップや離職率の低下なども期待され、企業としての生産性向上につながります。
健康経営の取り組みは「健康経営優良法人」「健康経営銘柄」といったかたちで社会的な評価につながります。企業のイメージが向上するのは当然ながら、株価など直接的に企業価値が向上する場合もあります。
また、いわゆる「ホワイト企業」としてイメージが浸透することで、採用力アップにもつながるでしょう。
従業員の健康状態の悪化は、企業としての健康保険料の負担増加につながります。今後、従業員の高年齢化が進めば、その負担はさらに増加するでしょう。
健康経営によって従業員の健康状態を良好にすることは、企業としての負担を減らすことにもつながるのです。
まず行うべきなのが、健康経営の導入を社内外へ発信することです。経営理念として明言し、具体的にどのような取り組みを実施するのか従業員や投資家などへ伝えていく必要があります。
健康経営を推進する専任の担当者や部署を設けて、組織全体で計画を推進できるよう体制を整えましょう。
健康経営は、経営層が号令をかけただけで推進されるものではありません。定期健診の奨励や生活習慣の改善など、従業員が積極的に参加できる施策を実施する必要があります。
場合によっては、健康経営アドバイザーなどから知見を得ることも検討してもよいでしょう。
社内の労働環境や従業員の状態などを確認し、自社の問題点を洗い出しましょう。例えば、従業員の欠勤率などからも健康管理の問題点は探れますし、長時間労働が常態化していれば改善する必要があります。
また、すでに健康経営を推進する企業を先行事例として、取り組みの参考にするのもよいでしょう。
具体的な計画が定まったら実行に移すだけですが、必要に応じて計画を改善することが大切です。例えば社内の状況だけではなく、社会情勢からも対応が迫られる場面があります。新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワーク推進などもそのひとつです。
従業員の健康を考えることが第一であり、計画の実行を目的と履き違えないよう注意しましょう。
国をあげて企業の健康経営が推進されていることからも、職場環境の改善や従業員の健康増進は避けて通れない問題です。
また現在は、新型コロナウイルスの感染拡大により、オフィスで働くことですら従業員の健康を脅かす事態となっています。従業員の健康維持が企業の存続に関わることが顕在化した今こそ、健康経営に取り組むべきといえるでしょう。