ダイバーシティには、企業における人材の多様性という意味があります。少子高齢化に伴う労働力人口の低下と働き方の多様化が進行する日本において、ダイバーシティは通れない取り組みです。人事担当者はどのようにしてダイバーシティを実施すべきか解説します。
ダイバーシティは一般的に「多様性」という意味ですが、人事領域では「企業における人材の多様性」という意味合いで用いられます。人材の多様性には、性別(ジェンダー)や民族、人種、ライフスタイルなど幅広い意味での個性や属性が含まれ、これらが組織のなかで共存している状態を指します。
こうした理念の推進を「ダイバーシティ経営」や「ダイバーシティ・マネジメント」と呼びます。組織内の多様な意見や視点を認め、従業員が適性に合った場所で力を発揮することで、企業と個人がそれぞれ成長していくことを目標とします。
少子高齢化に伴う労働力人口の低下から外国人労働者は増え、時短勤務や副業の解禁など働き方も多様化しています。ダイバーシティは、現代の企業にとって避けて通れない考え方なのです。
厚生労働省が公布した「『働き方改革』の実現に向けて」においても「ダイバーシティの推進」の項目があり、以下の7つが掲げられています。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
ダイバーシティ経営を取り入れたいと思っても、具体的にどんなことから着手すればよいかイメージしにくいのではないでしょうか。ここでは社内でダイバーシティを浸透させるために、人事担当者が取り組むべき事柄を紹介します。
一口に「社内でダイバーシティを取り入れる」と言っても、従業員はピンと来ません。いきなりジェンダー問題や人種問題を話題に出されても、とまどいを抱いてしまう従業員も多いでしょう。
ダイバーシティの理念を浸透させるには、企業として取り組む必要性を説明し、従業員それぞれに与えられるメリットを提示する必要があります。
研修方法は企業規模によって、選択するとよいでしょう。具体的には、「管理職単位で行う」「全社へ向けたセミナーを実施する」といった選択肢があります。
ダイバーシティは在宅勤務や育児休暇などの「多様な働き方」も含み、今やすべての働く人にとって無縁ではない考え方です。こうした働き方を認め、多様な人材を採用できる下地を作りましょう。
ダイバーシティの導入は従業員のエンゲージメントを高め、離職率の低下や生産性の向上にもつながります。
また、採用活動においても、ダイバーシティが浸透している会社は求職者にとって大きな魅力となります。海外の優秀な人材や貴重なスキルをもつ時短勤務希望者など、採用側の選択肢も大きく広がるでしょう。
時短勤務や育児休暇といった様々な働き方に加え、年齢や障害の有無などによっても携われる役割(職務)は異なってきます。このように多様な人材が企業のなかで共存するうえで欠かせないのが、人事評価制度の整備です。報酬や職位といった人事評価をどのようにくだすのか、新しい価値観に基づいた評価制度を整備する必要があります。
評価制度を曖昧にしたまま働き方に柔軟性を持たせると、負荷が多くかかっている従業員は不平を感じます。特に周囲の労働時間は減っているのにも関わらず、フルタイムのまま勤務する境遇に置かれた従業員は「しわ寄せが来ている」と感じるものです。
ただ新しい働き方を認めるだけでなく、従来通りにフルタイム勤務を続ける人材を再評価することも極めて重要な人事評価なのです。従業員それぞれが自身の評価に納得して職務をこなすことで、初めて生産性の向上が実現します。
日本におけるダイバーシティは、近年になって注目を集めるようになった取り組みです。ダイバーシティの走りとして挙げられるのが、1986年に施行された「男女雇用機会均等法」です。当時はダイバーシティという言葉こそ用いられていませんが、性別による差別を無くすための取り組みは、まさにダイバーシティ・マネジメントといえるでしょう。
この後、少しずつではありますが同種の取り組みが広がり、2012年には経済産業省からダイバーシティ推進が掲げられ、「ダイバーシティ経営企業100選」として経済産業大臣表彰が行われています。現在も「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」に取り組む企業を「100選プライム」として選定しています。
参考:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/
ダイバーシティは、国をあげての取り組みと言っても過言ではありません。さらに新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークが広まったことで、多くの人が新たな働き方の可能性に気づきました。
人材確保や生産性向上の視点からも、ダイバーシティの推進は避けて通れない取り組みとなっています。企業もダイバーシティへの取り組みを本格化させる段階に入ってきたといえるでしょう。