キャリアパスとは目標とする職務に向かうための道筋であり、企業が従業員に対して提示することで仕事へのやりがいにつながります。生産性の向上や離職率の低下が期待できますが、企業側が一方的に押し付けてしまうと退職のリスクが高まるという注意点もあります。
目次
キャリアパスは、目標とする職務(職位)に向かうための経験や道筋という意味をもつ経営学の用語です。
従業員に対してキャリアパスを示すことで将来像が明確となり、仕事へのやりがいやモチベーションアップにつながります。ひいては離職率の低下や生産性の向上につながることが期待され、近年注目を集める人事制度です。
キャリアパスを提示する際に基本となるのが、従業員の適性や希望を把握することです。必ずしも本人の適正と希望が合致しているとは限らず、場合によっては宝の持ち腐れのような状態に陥っている従業員がいるかもしれません。
従業員の適正や希望の把握に効果的なのが、定期的な面談です。業務への満足度や将来の展望などを確認しましょう。また、上長による面談だけではなく、人事部などが第三者的な立場で面談することでくみ取れることもあります。
キャリアパスの提示に不可欠なのが、人事評価の明確化と透明化です。具体的に「この項目をクリアすればキャリアが開かれる」といった人事評価を明確にし、提示できるように整備しなければいけません。
道筋が明確になることで従業員の意欲が向上し、評価の妥当性が共有されれば社内で不満が蓄積されるリスクも回避できます。
キャリアパスを設定する際、具体例を提示できると従業員もイメージを持ちやすくなります。
最もイメージを具体的にできるのは、やはり実際にキャリアを達成した先輩社員でしょう。自社内にロールモデルとして設定できる従業員がいるのであれば、その人物が受けた研修や所持しているスキルなどを洗い出し、キャリアパスとして設定するのが近道となります。
キャリアパスを示す際に注意しなければならないのが、本人の希望と相違がないかです。
企業側が従業員の適正やスキルなどから判断して一方的にキャリアパスを押しつけると、従業員本人が描いていたキャリアと乖離が生まれる可能性があります。
例えば、現場一筋で実務に携わっていたいという希望を持っていた従業員に、後進の育成に尽力してもらうため管理職へのキャリアパスを押しつけると、企業と従業員がそれぞれ抱いていた将来像に乖離が生じます。こうなるとキャリアパスの効果は一転し、従業員の生産性が低下するだけでなく、離職につながる可能性が高まります。
必ずしも昇進や適性に見合った職務が、従業員のやりがいにつながるとは限りません。キャリアパスを提示する際は、本人との面談を行ったうえですり合わせを行う必要があるのです。
キャリアパスを示すことによって、その道以外での成長可能性を閉ざしてしまう恐れがあります。
もっとも顕著な例が、専門技能をもつスペシャリストへのキャリアパスを示した場合です。スペシャリストへの道を辿ることにより、広く知識や技術を持つジェネラリストへの道は遠ざかります。
スペシャリストとジェネラリストは対義の役職であり極端な例ですが、キャリアパスを示すことで多かれ少なかれ遠ざかるポジションが存在します。
極端なキャリアパスを示す場合はとくに、従業員の潜在能力まで見通して提示する必要があるといえるでしょう。
キャリアパスは、採用活動時に求職者へ向けて公開することでも効果を発揮します。求職者からすると入社後のイメージが浮かびやすくなり、ミスマッチの防止に役立ちます。
また、キャリアパスに資格取得の補助などを含めているのであれば、より求職者の入社意欲を高められるでしょう。成長につながる道筋が具体的となり、同業他社との差別化にもつながります。
自社専用の採用ページや採用サイトを用意しているのであれば、積極的に求職者向けのコンテンツとしてキャリアパスを公開するとよいでしょう。
キャリアパスに似た言葉として、キャリアデザインとキャリアプランが挙げられます。
キャリアデザインは、人生における仕事(職業)について、将来像とそこまでの道筋を設計・構想することを意味します。理想や夢から将来像を描き、自身の希望や能力、社会情勢などを勘案して、将来像へ至るまでの道筋を設定します。
キャリアプランはキャリアデザインのなかに含まれる概念であり、自身の夢や理想などを目標に据え、その達成のために立てる実際の計画を指します。
いずれも個人の人生にまつわる考え方であり、一企業が従業員に提示するものではないので混同しないようにしましょう。
転職が当然となり人材の流動化が進む現在において、仕事へのやりがいの整備は欠かせません。まして人事評価が整備されておらず、従業員が正当な評価を受けていないと感じる場合、人材流出のリスクが高まります。すでに企業にとってキャリアパスの設定は、欠かせない人事制度といえるでしょう。