心理的安全性は、Google社によって広く知られたビジネス用語です。心理的安全性を向上させれば、組織のパフォーマンスを高めることができます。心理的安全性が組織に与える効果やメリット、心理的安全性を高めるための方法について分かりやすく解説します。
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2015年、Googleのリサーチチームは、組織のパフォーマンスを高めるには心理的安全性を向上させることが重要だと発表。心理的安全性という用語が広く知られるきっかけとなりました。ちなみに、心理的安全性といえばGoogleというイメージがありますが、実は、心理的安全性はGoogleの造語ではありません。
心理的安全性を提唱したのは、ハーバード大学の組織行動学者エイミー・エドモンソン氏です。氏は、「対人リスクのある行動をしても、この組織内では安全だという認識がメンバーによって共有されている状態」を心理的安全性(Psychological Safety)として提唱しました。つまり、心理的安全性は元々、心理学の用語でしたが、Googleのリサーチチームの発表によるビジネスで使われる用語として認知されるようになったのです。
それでは、ビジネスで使われる心理的安全性はどんな状態をいうのでしょうか?Google日本法人で役員を務めた岩村水樹氏は、著書『ワーク・スマート チームとテクノロジーが「できる」を増やす』の中で、ビジネスで心理的安全性が成立している状況を次のように説明しています。
組織において、メンバーが自分の意見・質問をする時に不安があったらどうでしょうか?新しい企画を思いついて上司に相談した時、「今まで通りの仕事をしていてくれよ!」といわれたら、発言することにためらいを感じてしまいますよね。心理的安全性が成立していれば、上司がリスクを取ってでも、部下に新しい企画を「やらせてみる」組織になります。
また、心理的安全性が成立している組織では、メンバー同士で本来の自分をさらけ出すことを許容します。自分の考えを押し殺すような組織ではなく、「やってみたい」ことを発言できる組織です。労働者のキャリアについても、会社のいいなりではなく自身がキャリアをひらいていくことを後押しするような組織は、心理的安全性が成立している組織といえるでしょう。
心理的安全性が低いとどうなるでしょうか?エイミー・エドモンソン氏は、心理的安全性が低いと次のような不安が生じると指摘しています。
心理的安全性が低いと、質問・発言しても「自分は無知だと思われるんじゃないか」という不安に駆られます。そうなると聞きたいことがあっても質問できず、メンバーの力量が高まらないでしょう。
心理的安全性が低いと、失敗・ミスをすると「自分は無能だと思われるんじゃないか」という不安に駆られます。そういう雰囲気の組織では、メンバーが失敗やミスをした時に事実を隠蔽し、報告をしなくなります。また、ミスを指摘してもミスの事実を認めなくなるでしょう。
心理的安全性が低いと、「自分の発言・行動によって組織の仕事を邪魔しているのではないか」という不安に駆られます。そうなれば、メンバーは自発的な言動を控えるようになり、新たな提案も生まれなくなるでしょう。
心理的安全性が低いと、「自分の発言によって相手を否定しているのではないか」という不安に駆られます。そうなると、たとえ自分の発言が相手の問題を指摘する場合であっても、ネガティブだと思われることへの不安から何もいえなくなります。問題があぶり出されることなく時間ばかりが経過し、気付いた時には問題が重大化してしまうことにもなりかねません。
心理的安全性が成立していると、組織にどのような効果やメリットが生じるでしょうか。3つのポイントで解説しましょう。
心理的安全性が成立している組織では、メンバーは仕事に集中できます。仕事で自由に発言・質問できる環境下では、メンバーはストレスや不安に苛まれることなく仕事に没頭できます。メンバーに裁量が与えられていますから、アイディアを練る際もポジティブに考えることができるのです。
心理的安全性が担保されている状態で仕事に没頭できるようになると、メンバーは仕事そのものへの面白さを感じるようになります。そのため、会社への愛着が増し、エンゲージメントの向上にも繋がるようになります。
心理的安全性が成立していると、生産性が高まります。メンバーは自由に意見をいい合えるようになりますから、ポジティブな議論も建設的な批判も可能です。新しいアイディアを思いついたら、意見を引っ込めずに上司に提案できる雰囲気があります。そのため、心理的安全性が成立している組織ではイノベーションも高まりやすいのです。
心理的安全性が成立している組織ではミスや失敗に対する圧力が少ないです。そのため、ミスや失敗を隠蔽しなくなり、問題が起こったらすぐに報告されます。そして、失敗や問題に対しては改善する意識が働きます。
心理的安全性が成立している組織では、リスクを受け入れる土壌があります。例えば、部下が新しい提案をしてきましたが、それが上司の専門外の提案だったとしたらどうでしょうか?リスクを受け入れられない組織では、上司は失敗した時の責任を想像して提案を受け入れないでしょう。
先に紹介した岩村水樹氏も『ワーク・スマート』の中で、岩村氏自身が部下の新しい企画がはらむリスクを承知の上で「Game Week」というゲームイベントを許可し、結果として成功した事例を紹介しています。ゲームに高い関心がない岩村氏が、部下の企画に対してリスクがあるからダメだとつっぱねていたらイベントの成功はあり得なかったはずです。
その後、Game Weekは世界的なイベントに広がったというのですから、リスクを受け入れてやらせてみることの重要性が想像できますよね。
これから心理的安全性を高めたいという場合にはどのような方法を取ったら良いでしょうか。1つひとつ、以下のポイントを確認していきましょう。
組織調査を行い、会社の現状において、何が問題となっているか、どんなリスクがあるか、といったことについて把握しておきましょう。組織調査によって、心理的安全性を低くしている原因を探れます。原因を突き止めたら、解決策を立てることができるので、組織として心理的安全性を高めるためにどうしたら良いかが分かるでしょう。
心理的安全性を高めるためには、上司が率先して行動を変える必要があります。部下が自身の意に沿わない発言をしたからといって、遮らずに傾聴してみて下さい。自身の視野で誤った意思決定をせずに済むかもしれません。
新しい提案、会議での反論や批判、あるいは端的な質問。このような部下の言葉に対して過敏に反応し、遮ってしまう組織では、心理的安全性は高まりません。まずは、上司が話を聞いてくれると部下が感じる雰囲気を作っていきましょう。
上司と部下が1on1ミーティングを行うことで両者の距離が近くなり、心理的安全性を高めることができます。1on1ミーティングは人事評価面談と違い、対話を通じて上司・部下の信頼関係を築くことを目的とするものです。
1on1ミーティングでは、日ごろの仕事ぶり、部下の目標、問題と感じていること、キャリアについて話していきます。時には雑談を交えながら対話を重ね、上司と部下の信頼関係を築いていくのです。OJTでは一方的な指導になりがちですが、1on1ミーティングを行えば双方向で話し合いをするため、部下は組織の中で積極的に発言・質問することができるようになり、心理的安全性を高めるために役立ちます。
心理的安全性とは、「対人リスクのある行動をしても、この組織内では安全だという認識がメンバーによって共有されている状態」をいう言葉です。心理的安全性が低いと様々なデメリットがあります。心理的安全性は、組織と人間との関わり合いの中で生まれる状態です。心理的安全性を高めるための方法を紹介しましたので、色々と試してみながら、心理的安全性が高まる組織づくりを行っていきましょう。