コンピテンシーは好業績を残す人材の行動特性を意味し、採用活動や人事評価、人材育成など企業活動の多くを変革させます。一方で、自社で独自のコンピテンシーを設定する必要があり、コンピテンシーモデルの選定など様々なポイントを押さえる必要があります。
目次
コンピテンシーはcompetence(競争する)から派生した言葉で、「良い業績を残した人材の行動特性」を意味します。
主に採用活動や人材育成の場で生かされ、良い業績を上げている人材は「何を考え、どんな行動を起こしているか」といった思考・行動パターンから特性を見つけ出して活用していきます。コンピテンシーの導入によって従業員の能力向上をはじめ、様々な効果が期待されます。
コンピテンシーの導入が必要となる背景として、成果主義の採用が挙げられます。人事評価において成果を重視するということは、業績による社員間の格差が広がるということであり、評価にも厳格で客観的な基準が求められます。そこで必要となるのが、コンピテンシーなのです。
同時に、業績の良い人材の思考・行動パターンを共有することで、社員間の格差を解消するという狙いもあります。
少子高齢化に伴う労働力人口の減少により、企業の多くが人手不足に直面しています。限られた人材で生産性を維持するためには、従業員一人ひとりのレベルアップが欠かせません。
高い業績を上げている人材の思考・行動パターンを学び、企業として生産性を高める必要があるのです。
コンピテンシーを人事評価に取り入れることによって、評価におけるブレが少なくなります。コンピテンシーを用いた人事評価は結果ではなく、「思考パターンを獲得したか」「行動パターンを実践できたか」といったプロセスを評価対象とします。
予期せぬ外的要因によって成果に結びつかなかったとしても、そこまでのプロセスがコンピテンシーに沿ったものであれば評価を与えます。評価を受ける側にとっては公平さが感じられ、納得感が生まれます。ひいては、従業員満足度の向上や早期離職の防止にもつながります。
コンピテンシーを利用して採用基準を定めることで、自社での活躍が期待できる人材を獲得できます。
「優秀な人材の条件」は、必ずしも決まっているものではありません。企業の規模や取引先の違い、社風といった様々な要因から求められる能力は変わります。例えば、大企業として確固たるブランドを確立している企業と知名度で劣る中小企業では、全く異なるアプローチが必要となるでしょう。
コンピテンシーを明らかにすることで、自社において重要な思考・行動パターンが判明し、自社にマッチした人材を採用できるというわけです。
なお、採用面接の場ではコンピテンシーと100%合致する人材を求めるのではなく、思考や行動の方向性を見極めましょう。例えばコンピテンシーが「計画を綿密に練る」というものであれば、面接では成功体験を質問しましょう。応募者が「考える前に行動に移すタイプ」なのか、「行動に移す前に考えるタイプ」なのかといった方向性から、コンピテンシーとの親和性を見極めます。
優秀な成績を残す人材のコンピテンシーが共有されることによって、従業員の育成に役立ちます。先述のとおり、労働力不足を補う意味でも従業員一人ひとりの生産性の向上は欠かせません。
ただし、あまり独創的なコンピテンシーを取り入れると、障害にぶつかった際に部署全体での停滞を招きかねません。多くの従業員が同じ行動を取ることで多様性が失われるためです。
コンピテンシーを実施するには、まずモデルとなる社員を選定し、ヒアリングを行う必要があります。モデルは偏りをなくすために、現在進行形で活躍している従業員を複数名選びましょう。
また、コンピテンシーは職種(部署)や階級ごとに異なります。同業他社のものですら会社規模や社風などの違いから、自社には適用されないことがあります。コンピテンシーは、自社で独自に作成するものなのです。
コンピテンシーモデルの設定で役立つのが「コンピテンシー・ディクショナリー」です。ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサーによって作成され、コンピテンシーを6領域・20項目に分類しています。
領域 | 項目 |
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1.達成・行動 |
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2.援助・対人支援 |
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3.インパクト・対人影響力 |
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4.管理領域 |
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5.知的領域 |
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6.個人の効果性 |
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一般的に業績の目標などは、上長から設定されます。しかしコンピテンシー式の人事評価は、「自ら考えること」や「自ら行動すること」が評価対象となります。指示をされたから考えた・行動したでは、本当の意味でのコンピテンシーとはいえません。
従業員一人ひとりがコンピテンシーの意義を理解し、実践することが重要なのです。
コンピテンシーには、上長によるコーチングも欠かせません。考え方など抽象的な項目を評価する制度であるため、日頃から行動・考え方に対してフィードバックを与えていくことが大切です。
また、部下に達成できなかった項目があれば、上長はその原因をともに考え、適切なフィードバックを与えて改善しなければなりません。
コンピテンシーは自社で独自に設定する必要があり、コンピテンシーモデルの選出から評価項目の設定など導入までに多くの労力を割く必要があります。
しかし、コンピテンシーの導入は人材育成や採用活動、人事評価など、企業活動における多くの場面に貢献します。自社の生産性や競争力を向上させるためにも積極的に取り組む必要があるといえるでしょう。